和歌の部
番外編

高村 光太郎


高村光太郎


場所:九十九里真亀海岸
情報提供者:九十九さん


智恵子抄:千鳥と遊ぶ智恵子

人っ子ひとり居ない九十九里の砂浜の
砂にすわって智恵子は遊ぶ。
無数の友達が智恵子の名を呼ぶ。
ちい、ちい、ちい、ちい、ちい、・・・・・
砂に小さな趾あとをつけて
千鳥が智恵子に寄って来る。
口の中でいつでも何か言っている智恵子が
両手をあげてよびかへす。
ちい、ちい、ちい、・・・
両手の貝を千鳥がねだる。
智恵子はそれをぱらぱら投げる。
群立つ千鳥が智恵子をよぶ。

ちい、ちい、ちい、ちい、ちい、・・・
人間商売さらりとやめて、
もう天然の向うへ行ってしまった智恵子の
うしろ姿がぽつんと見える。
二丁も離れた防風林の夕日の中で
松の花粉をあびながら私はいつまでも立ち尽す。



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